ものづくり補助金の最大の難関ともいえるのが賃上げ要件ではないでしょうか。
「賃上げ要件」と「賃上げ加点」が混在し、分かりにくくなっていることも申請をためらわせる原因の1つになっています。
そこで今回は、ものづくり補助金の賃上げ要件および賃上げ加点についてまとめました。
賃上げ要件を満たすためのヒントも紹介していますので、ぜひ申請時にお役立てください。
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ものづくり補助金には「賃上げ要件」が設定されており、一定以上賃上げできる見込みを立てなければ申請できません。ものづくり補助金に採択された後も、申請時に設定した賃上げを満たさなかった場合は補助金を返還することになっています。
ですから「申請時には賃上げの予定を組んでおきながら、実際には賃上げを実施しない」は通じません。賃上げ要件は必ずクリアしなければならないのです。
ものづくり補助金に申請するための賃上げ要件は主に2点です。
賃上げ要件が未達の場合は補助金返還となります。
企業の状況によって必要となる賃上げの額は異なりますので、申請前に御社の状況を必ずご確認ください。
1つめの要件は「給与支給総額を年平均+1.5%以上」というものです。
給与総支給額とはアルバイトやパートを含む全従業員及び役員に支払った給与等のことです。福利厚生費や法定福利費、退職金は除くとされています。人件費とは異なりますのでご注意ください。
例1)役員1人(年間報酬500万円)と従業員2人(年間給与額300万円・400万円)の場合
給与支給総額=500万円+300万円+400万円=1,200万円
1,200万円×1.5%=18万円
要件を満たすためには、事業場全体で年間18万円の賃上げが必要です。
例2)ひとり社長(年間報酬600万円)の場合
給与支給総額=600万円
600万円×1.5%=9万円
要件を満たすためには、年間9万円の賃上げが必要です。
例3)役員3人(年間報酬800万円×3人)と従業員10人(年間給与額500万円×5人・350万円×5人)の場合
給与支給総額=800万円×3+500万円×5+350万円×5=6,650万円
6,650万円×99.75万円
要件を満たすためには、事業場全体で年間99.75万円の賃上げが必要です。
役員数や従業員数、現在の給与額により要件達成に必要となる賃上げの額が異なります。
ものづくり補助金に申請する前に、現在の給与支給総額と必要となる賃上げの金額を確認しておきましょう。
もう1つの要件は「地域別最低賃金+30円」です。
地域別最低賃金とは、各都道府県で定められている最低賃金のことです。
毎年改定されており、厚生労働省のサイトで最新の情報が確認できます。
たとえば令和4年(2022年)12月現在の、新潟県における最低賃金は890円です。
仮に新潟県内に事業所を置く企業がものづくり補助金に申請する場合は、事業内最低賃金を920円以上にする必要があります。
なお地域別最低賃金+30円を満たさない従業員等が1人でもいると、ものづくり補助金の要件未達となります。ご注意ください。
事業内最低賃金は「時給換算」して求めます。
例1)時給のパートやアルバイトの場合
時給を確認して最低賃金+30円以上か調べましょう。
たとえば新潟県内で時給900円のアルバイトがいる場合「地域別最低賃金+30円」を満たすためには時給を20円以上アップさせる必要があります。
例2)月給の正社員の場合
年間給与額を時給に計算し直して調べます。
たとえば年間給与288万円、20日/月・8時間/日稼働であれば、時給は1,500円。
新潟県内の事業場であれば、890円+30円を大幅に上回っているので、給与の増額は不要と分かります。
賃上げはものづくり補助金申請時に提出した補助事業計画の期間内に達成することとされています。
事業期間は各事業者で異なりますので、自社の事業計画をご確認ください。
なお「年間支給総額+1.5%以上」の要件は、事業期間に比例します。
つまり補助事業が1年で完了するなら+1.5%ですが、2年なら+3.0%、3年なら+4.5%です。
事業の実施期間が長引くほどに、賃上げ要件は事実上増額となります。
申請時に「賃金引上げ計画の誓約書」を提出します。
誓約書はエクセル形式になっており、上から順に入力していくと誓約書が自動的に作成されます。
誓約書の作成ファイルは頻繁に更新されていますので、ものづくり補助金のポータルサイトから最新版をダウンロードしてください。
ものづくり補助金の申請要件とは別に、賃上げ加点が存在します。
<賃上げ加点>
下記いずれかを満たす必要があります。
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申請要件ではないので、満たさなくても申請は可能です。
しかし加点がつけば採択されやすくなりますので、ものづくり補助金の採択率を高めたい方やすでに賃上げの予定がある方は、ぜひご確認ください。
上記いずれかの加点要件を満たした場合、従業員の規模に応じて加点が行われます。
加点の詳細は公開されていませんが、加点された事業者が採択されやすくなることは間違いないでしょう。
賃上げ加点が難しい場合は、その他の加点項目が達成できないか確認してください。
<賃上げ以外の加点項目>
*再生事業者とは、中小企業活性化協議会等からの支援を受け、再生計画等を策定中または策定済みでかつ応募締切日から遡って3年以内に再生計画等が成立した者のこと。 |
加点項目の申請は、ものづくり補助金申請時に行います。
つまり補助事業の計画を作成する段階で、いくら賃上げをするのか確定させなくてはなりません。
「思ったより売上が上がったから賃上げしよう」はできませんのでご注意ください。
従業員の賃上げを加味した事業計画を立案しましょう。
賃上げ要件は申請するための必須条件ですから、未達のまま補助事業が完了した場合は補助金を返還することにもなりかねません。
賃上げに関して返還義務が生じるケースは以下の3つです。
賃上げは申請要件ですから、未達の場合は原則として補助金は返還することとなります。
① 賃上げ計画を策定していない
賃上げ計画はものづくり補助金申請時点で策定していなければなりません。ものづくり補助金の交付後に策定していないことが発覚した場合、補助金の返還が求められます。
② 給与支給総額の増加目標が未達
導入した設備等の簿価又は時価のいずれか低い方の額のうち補助金額に対応する分(残存簿価等×補助金額/実際の購入金額)の返還が求められます。
③ 事業場内最低賃金の増加目標が未達
補助金額を事業計画年数で除した額の返還が求められます。
賃上げ要件を満たせなければ原則として補助金は返還しなければなりません。
しかし「付加価値額が目標どおりに伸びなかった場合」や「天災など事業者の責めに負わない理由がある場合」等の場合には、目標未達でも補助金は返還しなくても良いとされています。
また再生事業者であれば、各賃上げ要件が未達でも補助金の返還義務は生じません。
補助金申請のためとはいえ、急な賃上げを負担に感じる経営者の方もおられるでしょう。
ここでは経営者側の負担を抑えながら賃上げ要件をクリアするヒントを紹介いたします。
給与としてカウントされるのは基本給だけではありません。
たとえば残業代や各種手当、ボーナスも賃上げ要件の対象ですから、上手に利用してください。
残業代やボーナスは、基本給をベースに計算している企業が多いもの。もし基本給をアップすると芋づる式に残業代やボーナスまで増加することになり、人件費の急増は免れません。
ものづくり補助金の賃上げ要件は年間支給総額ですから、年1回か2回支給しているボーナスを増加させるだけでもOK。
企業によっては各種手当を数千円上乗せするという方法も取れるでしょう。
ものづくり補助金の賃上げ要件における給与支給総額とは「全従業員と役員に支払った給与の合計額」のことです。
つまり企業が給与として支払った総額を指しています。
「給与支給総額を年率平均1.5%増加」とは、企業が給与として支払う金額を年1.5%増加させるという意味であり、全従業員に対して賃上げを実施する必要はありません。
そのため「貴重な資格を保持している従業員に対して資格手当を増額」、「課長以上に役職手当を増額」といった手法でも問題ありません。
貢献度が高い従業員を中心に、賃上げを検討しましょう。
役員報酬の賃上げを実施して要件を満たすことも可能です。
極端な例ですが、役員1人の年間報酬を増加させるだけでも要件は満たせます。
従業員を雇用していない事業者でも、ものづくり補助金は申請可能です。
賃上げ要件については「今後、従業員を雇用する場合」と仮定して、年率平均+1.5%以上かつ地域内最低賃金+30円を実現させる旨の誓約書を作成し提出します。
法人個人に関わらず、常時使用する従業員がいない場合は「賃金引上げ計画の誓約書(様式1-2)」をお使いください。
ものづくり補助金において「賃上げ要件」は必ず満たさなければならない項目であり、「賃上げ加点」は必須ではないが満たすと採択されやすくなる項目です。
多くの従業員を抱えている企業ほど賃上げ要件クリアのハードルは高くなりますが、今回の記事内容を参考にぜひものづくり補助金に申請なさってください。
きっと御社の成長を後押ししてくれるはずです。
まずは、お気軽にご相談ください