補助金は原則として返還不要ではあるものの、返還義務が生じるケースもあります。
補助金の財源は、国民から徴収した税金です。
必要な事業者に必要な金額だけ支給するのがあるべき姿ですから、逸脱した使い方をした事業者には当然、返還義務が生じるのです。
今回はものづくり補助金を返還しなければならないケースについてまとめました。
ものづくり補助金申請前に、ぜひご一読ください。
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ものづくり補助金は原則として返還不要ですが、特定のケースでは返還義務が発生します。
まずはその根拠となる法律と、ものづくり補助金の公募要領に記載された内容を確認しましょう。
「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」第四章では、補助金等の返還等について記載されています。
各省各庁の長は、間接補助事業者等が、間接補助金等の他の用途への使用をし、その他間接補助事業等に関して法令に違反したときは、補助事業者等に対し、当該間接補助金等に係る補助金等の交付の決定の全部又は一部を取り消すことができる。(第十七条-1)
各省各庁の長は、補助金等の交付の決定を取り消した場合において、補助事業等の当該取消に係る部分に関し、すでに補助金等が交付されているときは、期限を定めて、その返還を命じなければならない。(第十八条-1)
つまり「補助金申請時に定めた用途どおりに使用しない」場合等に、返還義務が生じるとされています。
上記のケースはどちらも「補助金の目的を達成していない」ケースであり、不正利用を防止するために設定されたと考えられます。
補助金を受け取るためには、その使い道について詳細に記した書類を申請時に提出しなければなりません。この書類に記載された使い道と実際の利用方法が異なる場合は「虚偽」とみなされ補助金決定が取り消されることになります。
同様に、書類に記載された要件を満たせなかった場合にも返還義務が生じます。
次に、ものづくり補助金の公募要領を確認しましょう。
たとえば11次締め切り分の公募要領には、以下のような文言が記載されています。
補助金の申請にあたって、「虚偽の申請による不正受給」、「補助金の目的外利用」や「補助金受給額を不当に釣り上げ、関係者へ報酬を配賦する」といった不正な行為が判明した場合は、交付規程に基づき交付決定取消となるだけでなく、補助金交付済みの場合、加算金を課した上で当該補助金の返還を求めます。
本事業の進捗状況確認のため、事務局が実地検査に入ることがあります。また、本事業実施中及び本事業終了後、会計検査院や事務局等が抜き打ちで実地検査に入ることがあります。この検査により補助金の返還命令等の指示がなされた場合は、これに従わなければなりません。
(公募要領より抜粋)
実地検査等で補助金に関して虚偽や目的外利用が発覚した場合、加算金をプラスした上で補助金を返還しなければならない、と示されています。場合によっては返還・加算金・公表・罰金・懲役等のペナルティが課せられることもありえますので、不正利用は絶対にやめましょう。
公募要領には上記のような不正利用以外にも返還しなければならないケースがいくつか記載されています。
次章では具体的に「ものづくり補助金の返還義務が発生するケース」を紹介します。
ものづくり補助金を返還しなければならないケースは、主に3パターンに分けられます。
1つめは「予定していた賃上げが達成できなかった場合」
2つめは「収益納付に該当する場合」
3つめは「不正利用が発覚した場合」です。
それぞれ特徴がまったく異なりますので、1つずつ詳細を確認しましょう。
ものづくり補助金申請のためには「賃上げ要件」を満たさなければなりません。
申請時に提出する「賃上げ計画の誓約書」の内容が守れなかった場合に返還義務が生じます。
ものづくり補助金申請時には、補助事業開始以降3〜5年間で1.5%以上総賃金を増加させる計画書を作成し提出します。
この時に提出した内容が守れなかった場合、
導入設備の時価又は残存簿価×補助金額/実際の購入金額で算定した金額
の返還が必要です。
購入から3〜5年後の減価償却を経た金額で計算できるため、実際の返還額は購入価格よりも大幅に減額されるでしょう。
そうはいっても、社会情勢次第では計画どおりに実行できないことも考えられます。
そこで「返還の免除」も規定されています。
付加価値額の増加が年率平均3%以上とならなかった場合であって給与支給総額の年率増加率平均が付加価値額の年率増加率平均の1/2を超えている場合又は天災など事業者の責めに負わない理由がある場合は、返還を求めない。
(ものづくり補助金交付規定より抜粋)
つまり、天災等の理由により売上等が目標どおりに伸びなかった場合、賃上げを実行するのは現実的ではないため、一部の場合には返還しなくても良い、ということです。
ものづくり補助金の採択者に選ばれた場合、毎年3月の賃金を報告しなければなりません。
このときの賃金を時給換算し、地域別最低賃金+30円が満たされていない従業員等がいた場合には
補助金額を事業計画年数で除した額
の返還を求めるとされています。
ただし上記と同様に、付加価値額増加率が年率平均1.5%に達しない場合や、天災など事業者の責めに負わない理由がある場合は、返還が免除されます。
つまり利益が出なかった場合には返還する必要はありません。
返還義務が生じるのは「利益が出たにもかかわらず賃上げしていない場合」に限られます。
なお賞与や臨時給与は計算に含められないため、3月のみ一時的に賞与や残業代を支給しても目標達成とはなりませんのでご注意ください。
補助金を利用した事業が黒字化し利益が確定した場合にも、補助金を返還することがあります。
ただし収益納付による補助金返還事例はほとんどありませんので、知識として持っておく程度で良いでしょう。
「補助金等適正化法」等の規定により、補助金を利用した事業に収益(収入から経費を引いた額)が生じた場合には、補助金交付額を限度として収益金の一部または全部に相当する額を返納する場合があります。
これを収益納付といい、事業完了後に実績報告書にて申告します。
ものづくり補助金に限らず、他の補助金でも同様の処置が取られます。
ざっくりした考え方は「自己負担額よりも収益が上がっているかどうか」です。
「補助金を利用した事業の収益-自己負担額」を計算して0以上であれば、収益納付と判断される可能性が出てきます。
しかし計算結果がマイナスとなれば、収益納付とはなりません。
たとえば、事業にかかる経費合計が500万円(A)で、補助金が300万円(B)だった場合、自己負担額は200万円(C)です。
この場合、事業収益が200万円(C)を超えない限り収益納付とはなりません。
逆に200万円(C)を超えた場合には補助金返還の可能性が生まれます。
たとえば収益が310万円(D)だったとすると、66万円が返納する金額となります。
{310万円(D)-200万円(C)}×{300万円(B)÷500万円(A)}=66万円
ただし収益納付に該当するケースでも、十分な賃上げを行なった場合等には返納が免除されるとされています。
不正、不当な行為を行なった場合にも返還義務が課せられます。
このケースでは補助金交付決定の取り消しや加算金を賦した上で、補助金を返還することになります。
不正、不当な行為以外での返還は「交付された補助金額が上限」ですが、不正と判断された場合は支給された「補助金額を上回る金額」を支払わなければなりません。
また適正化法に基づく罰則が適用されるとともに、当該企業を公表・告発5年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又は併科されます。
具体的には下記にあてはまる行為が「不正」「不当」とみなされます。
支給される補助金を申請どおりに利用すれば何の問題もありませんが、念のため確認しておきましょう。
これまでものづくり補助金の返還義務と具体的なケースをご紹介してきました。
返還するかもしれないお金なら、受け取らない方が良いのでしょうか?
いいえ、返還する可能性があったとしても、ものづくり補助金は利用を検討すべき制度です。
たしかにものづくり補助金は返還する可能性があります。
しかし「原則、返還不要」であり、実際に返還となるケースは非常に少ないものです。
逆に考えれば、返還せず全額受け取れる可能性が極めて高いため、積極的に利用すべき制度と言えます。
ものづくり補助金は設備投資等に利用できる制度です。
補助金額も大きいため、大胆な拡充が可能。
融資に頼るか購入を先延ばしにするしかなかったところを、ものづくり補助金でカバーすることで前倒しできるでしょう。
ものづくり補助金の補助採択企業に選ばれれば、補助金が受け取れるほど事業計画がしっかりしているとポジティブな評価につながります。
結果として金融機関からの融資を受けやすくなったり、ブランディングに利用してアピールできたりと良いことづくめなのです。
不採択になっても再チャレンジができます。
事業計画書等を見直して、次回の公募時に申請しましょう。
なお応募締切日前10ヶ月以内に、ものづくり補助金の交付決定を受けた事業者等は補助対象外となりました。
つまり、ものづくり補助金を交付されたことのない事業者が有利な状況です。
ぜひこの機会にものづくり補助金申請を検討されてはいかがでしょうか?
ものづくり補助金は、中小企業や小規模事業者等が働き方改革や被用者保険の適用拡大、賃上げ、インボイス導入等に対応するため、革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資等を支援するものです。
補助額は750万円〜3,000万円。
補助対象となる経費には「機械設備・システム構築費」「運搬費」「原材料費」等様々な経費が該当するため、大規模かつ積極的な業務改革に利用可能です。
2022年現在は通年で公募されており、3ヶ月おきに締切となります。
受付は電子申請のみで、事前にGビズIDプライムアカウントを取得しておく必要があります。
GビズIDとは補助金申請を含めた行政サービスを利用する際に求められるIDです。
ID取得には申請から2〜3週間かかりますので、ものづくり補助金に応募すると決断したら、すぐにID取得のための申請手続きを行なってください。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
ものづくり補助金は原則として返還不要ですが、一定の場合には返還義務が発生します。
ただし申請どおりに運用すれば全額受け取れるものですし、万が一申請時の目標が未達であっても、天災等の理由がはっきりしていれば返還は免除されます。
返還することになったとしても、不正行為でなければ受け取った補助金額が返還上限ですからマイナスにはなりません。
ぜひ、ものづくり補助金を上手に利用して、御社の今後の発展にお役立てください。
まずは、お気軽にご相談ください